色々片付けてから部屋に行くと、キングサイズのベッドでは直樹君が寝息を立てていた。

よっぽど疲れたのだろう、バタンキューだったようだ。

私はそんな直樹君をじっと見つめていた。


コーチに会えたことが嬉しくて、上機嫌だった二人の話をまるで母親みたいな面持ちで聞き入っていた。

何故だか解らない。
でも私は又泣きたくなっていた。

私はそっと直樹君の部屋を出てリビングへ向かっていた。


鳴き声なんて直樹君には聞かせられない。
明日からの練習に響くかも知れない。
私はそう思っていた。




 広いリビングには、誰も行こうとしない。
埼玉県に今住んでいる美紀ちゃんのお祖父さんのためらしい。
なるべく汚さないようにしているのだ。

三つの部屋とキッチンだけ、それだけ使わせてもらえばいい。
きっとそんな風に思ってるのではないのだろうか?

優しい三人のそれぞれの思い遣りを感じる。

私はそんな三人が益々大好きになっていた。


『お母さん』

電話だけど暫くぶりに呼んでみた。

私は陽菜ちゃんとフラワーフェスティバルに行った後でルームシェアする部屋を探すつもりでいた。


お母さんは、そのまま私が其処で暮らすために出て行ったと勘違いしたようだ。


(お母さん……。もう少しだけ此処にいてもいい? 私直樹君の傍にいたい)

私は携帯電話を取り出して、手のひらを被せた。


(陽菜ちゃん、お母さんごめんなさい)
私は唯一のコミュニケーション取れるそれに頬擦りした。




 やっと落ち着いた私は、気を取り直して再び直樹君の部屋のドアを開けた。


キングサイズのベッドで寝息を立てている直樹君の邪魔まをしないようにするのが関の山だった。

時々寝返りを打つ直樹君にトキメク。

胸がドキドキワクワクしてくる。


(ごめんなさい直樹君。私は本当は悪い女なの。恋の悪魔に魅入られて、貴方から離れられなくなった。弱い女なの)

直樹君の隣で目を瞑る。

それでも私はそ直樹君を見つめめるために又目を開けていた。


(眠れるはずがないよね。こんなに大好きな人が傍にいるのに)
そう思いながらも、私は目を瞑った。