幸い、他の調味料はIHコンロの脇に揃えられていた。


「えーっと、これは塩、これが砂糖。あっ、油もある。良かった。これで何とかなる」

私は早速中鎖脂肪酸の入っている油をフライパンに入れた。


「此処で暮らしていたのは美紀さんのお祖父さんだったわね。流石身体に気を付けていますね」


「えっ、何で解るの?」


「ほらこの油。身体に優しいんです」

言った本人がびっくりした。

私の口から、そんな言葉が出てくるなんて。


(昨日からおかしいんだよね。私どうなっちゃったんだろ?)




 久し振りに玉子を割たった。
良く洗った調理器具は、私の手に不思議と馴染む。


私は手際よく、人数分のオムレツを用意した。


(私って天才かな)
テーブルを見ながら微笑んでいた。

そこへみんなが入って来た。


「おー、スゲー旨そ。あれっ……」

秀樹君がテーブルに置いてあったケチャップを手にしながら固まった。


「確か、美紀は何時もケチャップたっぷりのオムレツを作っていたな?」

そう言いながら直樹君を見る。

私が直樹君に目を移すとそっと頷いていた。




 (何?)
昨日から私を見る目がおかしい。

まるで、腫れ物にでも触るような態度だ。
でも、それは私を気遣ってくれているのだと思ってた。


(きっと、本気でお爺さんに頼まれたと思っているんだ。悪いことしちゃったな)

私はみんなに嘘を付いていることが後ろめたくて仕方無かった。


全員が優しくて、家族のように親しくて、これ以上の嘘はつきたくはない。
でもそれを言うと私は此処には居られなくなる。


陽菜ちゃんとのルームシェアを考えてから、アルバイトで戴いた給料をせっせと貯めてきた。

でもその通帳を家に置いてきたのだ。
フラワーフェスティバルの後で陽菜ちゃんとルームシェアする家に行き、詳細を決めるはずだったから。


引っ越し業者に言われた、別料金。
あのままだったら、どうなっていたかも判らない。
手元にある僅かな現金だけでは自宅まで帰ることが出来ないと思ったのだ。


それがこの家に置いてもらった本当の理由だった。
他に手段はなかったのだ。


でもそれは単なる言い訳にすぎない。
私はせっかく逢えた直樹君と離れたくなくて嘘を言っただけなのだから。