「待ってろ、今警察に引き渡すから」


「えっー!? やだ!!」

私はソイツの携帯を取り上げた。


「ごめんなさい。後でちゃんと返すから、今は私にチャンスをください!!」

私はソイツに向かって頭を下げた。




 私の名前は中村紫音。二十歳。

親友の陽菜ちゃんにフラワーフェスティバルに誘われて、新宿駅前で待ち合わせしていたのだ。


そしてその後でルームシェアする家を見に行くはずだったのだ。


(陽菜ちゃんは今何処に居るのだろう?)
気になって携帯を見てみた。


(ありゃ。着信ばっか)

私は慌てて陽菜ちゃんに携帯電話を掛けていた。


「待ってて、友達に説明してもらうから」

私は自分の言葉の意味など理解していなかった。

一体何をしようとしているのだろう。

陽菜ちゃんにもこの状況が解る訳ないのに……




 「もしもし陽菜ちゃん?」
恐る恐る携帯を掛ける。


『約束すっぽかし何遣ってるの? 今何処なの?』
普段は大人しい陽菜ちゃんが怒っている。

当たり前だ……
私何遣ってるんだろう?


「解んないの。ねえ陽菜ちゃん、助けて」
私は陽菜ちゃんに泣きついた。


『待ってて……今、GPSで探すから……、大変だよ。紫音ちゃん……、其処大阪だよ』


「えっ、大阪!?」

あまりに唐突な言葉に私は呆然としていた。


(嘘だ。嘘だ)

私の頭は完全にパニック状態だった。




 「あのー、此処大阪ですか?」
まだ整理出来ていないけど、携帯を取り上げた以上確かめなくてはならなかった。


「あぁ、そうだよ」

そう言ったのは、最初に声を掛けてきた人だった。


「知らないうちに此処まで運ばれたか?」

その言葉に私は頷いた。


「事情は解った。それでも、輸送料追加してもらわないとな」

ソイツは私から携帯を受け取りながら真面目に答えていた。




 私と陽菜ちゃんは、三年前に東京で開催された花の見本市で出会った。

広い会場を歩き疲れて、一番隅っこにあるレストランで食事をしようとしていた時だった。


同じ椅子に手を掛けたのだ。
ばつが悪くて、どちらともなく笑い出した。


それが陽菜ちゃんだった。

陽菜ちゃんは、私の手を引いて隣の席に座らせてくれた。