珠希の仏壇に合掌した後、祖父はスケッチブックを取り出した。

それには移動中に書きためたものだった。


――なぜだ!――


――美紀は子供だ――


――美紀を汚すな――


――美紀は宝物だ!――


――美紀は連れて帰る――

 祖父の怒りは解る。

自分が同じ立場だったら、きっとこうするだろう。

でもここは絶対に譲れなかった。


祖父は、秀樹と直樹が社会人野球チーム入りを密かに応援しようと思っていた。

祖父は一代で財を成した人だった。
今住んでいる邸宅はその象徴で、ゲストルームも沢山あったのだ。
だから其処で三つ子達と暮らせることを夢見ていたのだった。


でも正樹は息子達の大阪行きをまだ知らなかった。

うっかりしていた。
正樹の頭は……

美紀との結婚話に浮かれていたのだった。




 それは美紀からのSOSだった。
連絡を受けて、大阪の祖父を沙耶が訪ねて来た。

そして又……。

今度は美紀の祖父に向かって、智恵の愛を説明する。

沙耶はボロボロだった。

それでも食い下がる。
祖父が根負けするまで、二人の愛の遍歴を説明してくれた。


二人の同級生だからこそ解ること。

智恵の人柄・世界観。
そして初恋故の重み。


智恵が愛した正樹。
その娘に憑依してまで愛を貫く。

でも決して浮気ではない。


きっと真吾は、そんな智恵だからこそ愛したのだ。


祖父はその事実を沙耶の心意気で悟った。


――パパが好きか?――

美紀に聞く祖父。
美紀は大きく頷いた。


そして祖父はやっと婚約を承知した。




 秀樹と直樹が慌てて帰って来た。

二人は大阪行きを画策したことがバレたのだと思ったのだ。

でも祖父は、美紀の卒業式に出席するために大阪から駆けつけたと説明した。

まだだいぶ時間はあったのだが、他の口実は見つからなかった。


――君達のことも相談したくてね――


「親父にはまだ何も?」

祖父はそっと頷いた。


――君達は好きにすればいいよ――

そのメモを見て、二人はふっと胸を撫でおろした。


二人はその後、大の家に向かった。
実は大が一番騒いでいたのだ。
美紀ちゃんに何かあったのではないかと……

大はのんびり屋だったけど、美紀に関しては鋭かったのだ。