仕方ないので無理矢理二人を引き離すことにした。


覚えたばかりで、得意になっているのだろう。

全然、気にもしていない様子だった。



「女の子にこんなことしちゃ駄目!!」

先生はそう言いながら必死に形相で正樹の腕と足を外した。


「だってパパは、本当は全然痛くないだって言ってたよ」


「大人にはそうかも知れないけど女の子には耐えられない痛さなの」


「嘘だー」

沙耶は保育士達によって正樹の魔の手からやっと外れることが出来てホッとしていた。

でも正樹は、今夜は沙耶の足を持って足四の字固めを決めてしまった。


「ギャー!!」

沙耶は悲鳴を上げた。




 足四の字固めは掛けられた姿が四の字のようになったところから命名されたようだ。

まず体を回転させ、相手の膝を取り左足を被せてロックする。
足が太ければ太いほど強烈に締まり、なかなかほどけない。


良く掛けた方が反対の体制になれば痛みは移動すると言われる。
でも大した痛さではないと言い切った強者も存在していたらしい。


大人の見るテレビで子供は情操教育される。
正樹の父親は無類のプロレス好きだった。

でも彼は病んでいた。
だから残り少ない日々を息子との交流に当てていたのだった。
女の子を苛めるためでも悪戯させるためでもなかったのだ。




 正樹の父親がお迎えに来たのは、病院からの帰りだった。

それに気付いた職員は我先にと彼の元を目指す。


「今日も又息子さんが女の子に悪戯しましてね。あのプロレス技何とかなりませんか?」

職員達は口々に今日の正樹の報告をする。

でも本音はそんなこと言うためではない。
ただ単に、彼に会いたかっただけなのだ。

そうあの言葉は、そのための口実だったのだ。


「私は少しで死ぬ人間です。だから息子との思い出作りに始めたのですが……」
彼は手を組んで考え始めた。

薄幸の美青年?
と言うべき存在。

彼は不治の病を患っていて、明日をも知らぬ身体だったのだ。
それが人気に拍車をかけていたのだった。