正樹は高校総体の、軟式テニス地区予選の応援に行った。

その時、隣のコートでプレーをしていたのが珠希だった。


その技術力に圧倒され、拍手喝采を送った正樹。

非の打ち所もない前衛。
珠希は高校生でありながらプロ級だった。

自校の応援そっちのけで珠希に見入った正樹。
その正樹に一目惚れした珠希。

二人はこうして恋に堕ちたのだった。


その恋のキューピットになったのが沙耶だった。

望んでもいないのに……

こうなることなど予想もしていなかったのに……

結果的に沙耶は、珠希と正樹の出逢いを演出したことになったのだった。


沙耶も姉の後を追い、ソフトテニスの前身軟式テニスの道に入ったのだった。

偶々同じ日に姉の珠希も試合をしていたのだ。

インターハイの予選会に一年生が出場する。

沙耶もそれほど凄い名プレーヤーだったのだ。


正樹が応援に行ったのは、沙耶の所属しているクラブだったのだ。

それも沙耶が頼んで……

だから沙耶は、ずっと後悔していたのだった。




 『姉と正樹さん、インターハイの地区予選会場で出会ったの』

美紀にはそう説明した。
自分から誘ったなんて言えなかったのだ。


『正樹さんは先輩の応援に来ていたの。学校は違っても同じ町の仲間として意気投合して』

美紀にはそう言いながら沙耶は苦笑していた。
自分から頼んだなんて言えるはずがなかった。

それは、本当は正樹を愛していると告白するに等しい行為だったから。


まさかのハプニング。
そんな光景だった。

姉の、珠希の視線の先に正樹がいた。
自分の恋しい正樹を見つめていた。

姉が正樹を奪った瞬間だった。


悪夢だと思った。

悪い冗談だと思った。


でもそれで済まなかった。


二人は出逢いから二年半を経て結婚したのだった。


大好きな軟式テニスと正樹をゲットするために、珠希が選んだ道。

それが、中学での体育教師だったのだ。