でも正樹は、美紀を自由にしてやりたいと思うようになっていた。


定期的き連絡を取り合っている大阪の美紀の祖父は、美紀の出現で新しい人生をスタートさせようとしていた。

もう一度光輝くために……

優しい孫娘に又逢いたいがために……

リハビリも積極的になり、健康な生活を送るようになった。


正樹はそんな大阪の祖父の元へ、美紀を返そうと思い始めていた。

勿論、大に美紀を託せるかどうかも視野には入れている。

でも、大阪に行けば何不自由なく暮らして行ける。
何も好き好んで、この家で苦労を背負い込まなくても良いだろう。
だからそれとなく、匂わせていた。


正樹はまだ、秀樹と直樹の大阪行きを知らない。
美紀の祖父が、その気になっていることも知らないでいたのだ。




 美紀が珠希の背中を追っているのは知っている。

珠希と同じように、自分の犠牲になることさえも覚悟の上だと……

そのために短大を選んだことも知っている。

自分に内緒で必死に遣り繰りをして、短大の授業料を捻出させたことも知っている。


でも……
美紀を羽ばたかせてやるのが親としての責務だと認識し、沙耶に相談することにしたのだった。


自分へお見合いを勧めた沙耶。
もしまだその話が生きているなら、もう一度考え直そう。
そう思っていた。

美紀を諦めるためだった。

美紀に諦めさせるためだった。
どんなに好きでも。
どんなに愛していても。
それが一番良い選択だ。
苦しみもがいた末に、正樹はやっと決意した。




 正樹は辛い決断をした。
しざるを得なかった。

美紀を思えばこその判断だった。


泣かれることは解っている。

蔑まれることも勿論承知の上だ。

でも正樹に出来ることはこれ位しかなかった。


お見合いの相手を愛せるかどうかも心配だった。


(でも……沙耶さんが勧めてくれた人なら間違いないだろう)

正樹はそう判断して、沙耶に連絡を入れたのだった。

おりいって相談があると。


正樹はその時、本当に美紀の幸せだけを祈っていた。

願い続けていた。

そのためならどんな苦労も厭わない。
そう思っていた。