あの運命のドラフト会議の日。
詰め掛けた報道陣が体育館に設置されたモニターを見つめていた。

学校関係者もその対応に追われながら成り行きを見守ってくれていた。


画面から各球団の引き当てた、選手名が次々と発表される。


でも、結局どの球団からも長尾秀樹・直樹兄弟の指名はなかった。


集まった報道陣からもため息が漏れたが、一番がっかりしたのは当の二人だった。
意気消沈したかのように俯いたままで、マトモに話せない状態だったのだ。

泣きたかった。
でも皆の前で失態は見せられない。

それは彼等の意地だった。




 大学に行くか、社会人野球に行くかは、二人の選択に任されることになった。

二人はその場で迷わず社会人野球の道を選んでいた。
正樹にこれ以上の負担を掛けたくなかったからだった。


でも本当の理由は違っていた。
美紀を手に入れるための結論だった。


大阪に住む美紀の祖父から、大学の入学金などの援助話もあった。
それでも、それに甘えてはいけない。
秀樹と直樹は自らそう決意した。

大は大学に行き、教師を目指すと言う。

三人はそれぞれの思いで、美紀に告白しようとしていたのだ。




 ドラフト会議での敗退理由は、地方の決勝戦で秀樹のツーシームが打ち込まれたことらしかった。

研究されると使い物にならない。
そのように思われてしまったのだった。

甲子園での三回戦。
突然乱れた秀樹。

相手側の汚い作戦だと誰も気付ないからなのかどうかは判らない。

でも、みんな尻込みしたのだ。
本当の秀樹を知りもしないで。


だからこそ秀樹と直樹は悩んだ。

プロ野球の選手になる夢を捨てられないのだ。
諦めてサラリーマンになることなど出来る訳がないのだ。


終了後の体育館で、社会人野球宣言したまでは良かった。

でも其処に行ける方法を知らなかった。

二人は本当に無知だったのだ。