走り回って配達を終えた後食事を済ませ、学校へ向かう。


午後からの授業は、三時から始まる夕刊の配達のために出席出来ないこともある。
そのために単位不足で留年させられる場合もあったようだ。


それでも、入学金や授業料など肩代わりしてくれるこの制度は、今でも多くの学生の支えになっていることは間違い事実なのだ。




 珠希が通った私立の短期大学に美紀も通う。
家から一番近くて、自転車で通える距離にあったこの短大は美紀にとっても魅力だった。



だから美紀も其処を選んだのだった。
正樹と離れなくても済むこの学校を。

珠希も美紀も、片時も正樹と離れたく無かったのだった。

その上、大好きなソフトテニスをずっと遣っていける。

だから……
珠希はそのための努力を惜しまなかったのだ。


その短大に通う間も、珠希は新聞配達のアルバイトを欠かさなかった。
約二年半。
珠希は正樹の夢を叶えるために自分の時間を犠牲にしたのだった。


一途に正樹を愛した珠希。

その限りない愛の炎は……

今娘へと受け継がれようとしていた。

たとえ養女であっても、美紀は珠希の心意気を受け継いだ愛娘だったのだ。


決して派手ではない。

堅実に賢く生きた珠希。


夫である正樹を愛し、子供を愛す。

それ故に……
その大き過ぎる愛故に……

美紀は到底及ばないと思い込んでいたのだった。


だから余計に正樹の愛を求めた。

叶わぬ夢だと知りながら。


珠希の……
ママの代わりでもいいからと……




 何故珠希が正樹との結婚に拘ったのか?
それは妹、沙耶が大反対したからだった。

所謂意地だった。

でもそれ以上に、正樹を愛していた。

自己犠牲も問わないほどに、正樹に恋していたのだった。


沙耶は不思議だった。
何故それほどまでに正樹を思えるのかが判らなかったのだ。


小さい時から珠希の背中を見て来た。
沙耶も軟式テニスの選手だったのだ。


あのインターハイの予選会場には沙耶もいたのだ。

そして、珠希と正樹の出逢いの場にも立ち会ってしまっていたのだった。


いや本当は、沙耶が二人のキューピッド役になってしまっていたのだった。