ママの夢が自分の夢となった時、パパが喜んでくれると信じてた。

だから決意したのだ。

ママと同じ短大に通うことを。

でもその夢は、美紀にとってあまりにも遠い存在だったのだ。


珠希の通ったその学校は、長尾家から一番近い短大だった。
だから珠希は正樹と離れないで済む其処を選んだのだ。


その短大は専門学校同等に授業料が高い。

だから珠希はその資金を捻出するために頑張ったのだった。

そう……
それが美紀の悩みのタネだった。

美紀も珠希同様に、その資金作りに奔走しなくてはならなかったのだ。




 珠希は開校間もない短期大学の情報を得て浮き足立った。
でも授業料は高かった。
だから珠希は新聞配達のアルバイトをしながら、一生懸命にその資金を貯めたのだ。


その短大の試験日程は秋だった。

まだ正樹と出会って三ヶ月しか経っていないのに、珠希はしっかりと自分の行く末を見つめていたのだった。


新聞配達員の奨学金制度と言う物もある。
新聞配達はアルバイトでも、かなりの高収入だったのだ。


でも珠希はその事実を正樹にも内緒にしていた。


だから正樹は早朝トレーニングだと主張した珠希の言葉疑わなかったようだ。




 新聞配達員の奨学金制度。

所謂新聞奨学生は、大学に入学する生徒にとって頼みの綱と言っても過言ではない。
でも珠希の生きた時代の環境は劣悪だったようだ。

午前三時前に起床して、前日に用意しておいた折り込みチラシを新聞本体に挟み込む。
全て終了した後、配達に出かける。

雨の日は今では当たり前になったビニール袋に入っていないので、配達途中で濡れてしまうのだ。
そのために、配達された家庭からの苦情も絶えなかったようだ。


新聞配達には欠かせない冊子がある。

一軒一軒、どんな銘柄の新聞を取っているかなどが書かれている大切な書類だ。
今で例えるなら、一筆箋位な大きさで片手で持てるサイズだった。
中には、独特の印が刻まれている。


この道真っ直ぐ。
一軒おいて隣の家。
此処で戻る。

そんな記号で埋め尽くされたそれは、新聞販売店の命とも言えるべき品物だった。

そして万が一、別の地域の配達に支障をきたした場合は応援に駆けつける。

そのためにも、記号は勿論全ての地域を頭の中に把握しておかなければならないのだ。