ドアを静かに閉め、施錠する。

美紀は又……
そのまま正樹を見つめた。


ドアからベッドまでが遠く感じる。

もし珠希だったらこうは感じないだろう。
美紀はその時、やはり正樹を愛したのは自分自身だったと思った。

今……
この場に自分が居るのは珠希が導いたからではない。
そう感じた。


思い詰めたように、美紀がベッドへと向かう。

正樹が眠っているダブルベッド。
其処から僅かに香る珠希のフレグランス。


美紀は一瞬戸惑った。
今の自分と同じ香り。


次の瞬間。美紀は恥じらいに目覚めた。

それでも愛する気持ちがそれを上回った。


美紀はゆっくりバスローブを脱ぎ、正樹の寝ているベッドに潜り込んだ。




 突然の美紀の襲来に正樹は驚いて飛び起きた。

美紀の好意は嬉しい。
でもまだその時期ではないと正樹は考えた。


本当はすぐにでも抱きたかった。

亡妻・珠希と同じ香りのする美紀を。


ベッドの脇に脱ぎ捨ててあるバスローブを美紀に着せる。

その後……
説得させるために抱き締めながら、欲望と戦った。


正樹の体は燃えていた。
もう耐えられない程煮えたぎっていた。

それを必死に押さえ込む。

それでも駄目で……
それでも無理で……
正樹はとうとう嗚咽を漏らした。


激しい欲念と格闘する。

この苦しみから逃れることが出来るのなら、思い切って美紀を抱こう。

そうも考える。

でもその後で、きっと凄まじい罪悪感に苛まれる。

それは解りきっていた。