美紀は知っていた。
正樹は部屋に鍵を掛けないことを。

だから決行する。

それは珠希のためだと言うことも解っていた。

魂になってでも添い寝して欲しいほど、正樹は珠希を求めていたのだった。

本当は甘えん坊の正樹。

珠希が恋しかった……


そのために開けている。
それを知りながら……

美紀はどうしても、正樹の傍に行きたかった。

同じベッドで休みたかった。


「ママごめんなさい」

又誤る美紀。


「パパの傍に居たいの。せめて……」

鏡に写る自分の中の珠希に語りかけるように、美紀はそっと微笑みを返した。


「そう……せめてバレンタインデーの内に」




 バスローブとバスキャップ。
それだけ身に付けて、階段を上る。
兄弟の部屋は静かだった。

きっと眠りに着いたのだろう。
でも念には念を入れ、物音を立てないように進む。

もし秀樹と直樹に見つかったら……。
それだけは絶対避けたい。
美紀の頭にはそれしかなかった。


でも二人は眠ってなんかいなかった。

美紀のことで二人は悶々とした時間を過ごしていたのだった。


二段ベッドの上で、妄想にふける。
此処に美紀が居てくれたらと思う。

今すぐ逢いたくてしょうがない。

抱き締めたくてしょうがない。

でも諦めるよりしょうがないと、二人な本当は思っていたのだった。

そう全ては美紀の幸せのために……




 バレンタインデーの終わらない内に……

バスローブ以外何も身に着けない産まれたままの身体で……


夜こっそり寝室のドアを開ける。


――ガチャ。

そのごく僅かな音に固まる美紀。

気付かれたかと思い、美紀は正樹を見つめた。


正樹はベッドの中にいた。


(良かった……)
美紀はホッと胸をなで下ろした。

気付かれたらきっとその場で拒否をされる。

美紀はそう思っていた。


正樹が自分を避けれことは当然だと思っていた。

だって正樹は未だに珠希に恋い焦がれているからだから。

でも美紀の体に巣造った珠希の魂が求めている。

正樹の心を求めている。

正樹の身体を求めている。


美紀も沙耶の言葉を鵜呑みにした訳ではない。

でも正樹を思う気持ちは、珠希をも上まっていると感じていた。