でもそんなことは知ってか知らずか、美紀は正樹のバレンタインのプレゼントに自分自身を選んでいた。

美紀は正樹に抱いてもらいたかったのだ。

何度も諦めた。
何時も問い詰めた。
それでも……
今回ばかりは理性が言うことを聞かない。


何故だか解らない。
美紀は本当に正樹が好きなくせに、戸惑ってもいたのだった。

でも無性に愛しくなる。

兄弟達に幾ら好きだと打ち明けられても、眼中にはないのだ。


大との結婚だって勿論考えた。
それが一番良い方法だと言うことも承知している。

でも……
物足りない。
自分の全てを癒してくれるのはやはりパパだけなのだと思った。




 全員が入浴したのを確認した後、脱衣場に珠希の愛用していたバスローブを準備した。

誰にも絶対に見られなくなかった。
本当は……
恥ずかしかったのだ。

何度辞めようと思ったことか……

でも正樹を愛する心が上回った。


念入りに身体を洗う。
その後に珠希の愛用していたシャンプー。
何時か自分のお気に入りになっていた、ママの香り。

甘い香りに包まれながら、美紀は大人の女に変身していく。

美紀は自分の中に珠希を見ていた。
憑依ではない。
別の珠希を。


(ママ……、パパを頂戴。やっぱり私パパが好き)

美紀はやっと決意した。




 鏡に映る自分に珠希の顔を重ねてみた。
やはり本当の親子ではないから似ていない。
そう思う。


「自分は自分だよね」
ワザと呟く。
だけど、本当は……
母の結城智恵に憑依され、ママの長尾珠希に身体を乗っ取られる。

美紀は正樹のために働かされた。

でもそれは自分でも望んだこと。

誰のためでもない。本当にパパが大好きだったから。


美紀は自分の意思で珠希のフレグランスを身に付けた。

そうでもしない限り、挫けてしまうと思ったからだった。


全てを珠希の香りのせいにすることで美紀は正樹の元へと行けると判断したからだった。