そしていよいよその本番の日。

待ちに待ったバレンタインデーがやってきた。


学校は期末試験後、卒業に向けて週一の登校になっていた。


就職活動や入試の準備などで忙しくなるためだった。


その登校日が偶々その日と重なったのだった。


美紀は、チョコレートの包みを三個用意していた。

勿論、大と秀樹と直樹の分だった。


それを見て、ガッカリする者もいた。

自分も欲しいと、クラスメイトの男性陣は密かに期待していたのだ。


そんな中……
本命チョコは誰の手にと、学友達は誰もが固唾を飲んで見守っていた。




 「喧嘩しないでね」

美紀はそう言いながら、全く同じサイズのトリュフチョコを三人に渡した。


それを見届けて、みんなため息を吐いた。


「勘違いしないでね。本当に義理チョコだから」 
美紀はトドメに、ハッキリそう言いながら渡していた。

美紀自身、このままではイヤだったのだ。

だからワザとそう言ったのだった。


「美紀はな、親父を愛しているんだよ」

本当は美紀が誰を好きなのかと言うことを知らないと思い込み、大に告げた直樹。


「えっー!?」
突拍子のない大の声が、クラス全体に広がった。
大はわざと、そう言ったのだった。


「そうか、だからおばさんはあの時……」
直樹に聞こえるように言った後、大はもう一度花火大会の時の沙耶の言動を思い出していた。




 『ねえ、あんた達。美紀ちゃんが誰を好きなのか知ってて言ってる訳?』

言ってしまってから慌てて口をふさいだ沙耶。

『あれ私……? 何ていうことを』
そして沙耶はそっと正樹の顔を伺った。


あの日の……
花火大会のルーフバルコニーの出来事を、大は思い出していた。


「そんな馬鹿な……」
大はガッカリした振りをしていた。


「だろ? 俺達だって納得行かないんだ」

直樹は今まで、交わして来たラブバトルが急に虚しく思えていた。

たから大に打ち明けだのだった。


でもクリスマスに正樹から美紀を託されたと思い込んでいた大。

内心、勝ったことを確信していた。