それからの数日で、勇人との距離があっという間に縮まった。
生徒総会は終ったものの、新体制での打ち合わせや相談は
たびたびどころかほぼ毎日しなければならなかったし
放課後、二人で一緒に作業をすることも多かったからだ。
結那ほど無遠慮にはなれなかったけれど
互いにかなり打ち解けた物言いができる間柄にはなった。
後期は三年生が受験を控えた大事な時期なので
大きな学校行事はないものの、部活は新人戦や秋季大会があるし
年が明ければ予餞会や卒業式も控えている。
それについての予算案や企画立案もしなければならないから
穏やかでも生徒会としての仕事が途切れることはなかった。
その日も放課後に打ち合わせをすることになっていた。
校内外に関係なく注目を集める勇人は
普段、ただ彼が廊下を歩いているだけでも
きゃ♪と小さな悲鳴が上がる。
当然 誕生日、クリスマス、バレンタインと
ここぞというイベントの日ともなれば
彼の身の回りはいつもにも増して騒がしくなる。
その打ち合わせ当日がたまたま誕生日だった勇人は
一日中 知る人、知らない人からお祝い攻めに遭ったらしく
心底辟易としているようで、珍しく疲れた表情で生徒会室に現れた。
ふう、と大きなため息を吐いて崩れるように席に座ると
何なんだろうな、と誰に言うとはなく小さく呟いた。
「仕方ないわよ。人気者なんだから」
「そんなものになった覚えはない」
「そういうのって本人の意思に関わらず、なってしまうものなの」
「迷惑な話だ」
何とも贅沢で、罰当たりな発言だと思わなくもないけれど
当人にしてみれば、望まない現状は迷惑以外の何ものでもないのだろう。
「なら早く彼女を作れば?多少は騒ぎも収まるわよ」
「そういうものなのか?」
「そういうものなの」
「わからんな」
「何が?わかるでしょう?!」
「じゃあ何か?人気者の定義はその人間そのものではなくて
彼女や彼氏がいるかいないかで決まる、ということなのか?」
そう言って腕を組んで首を傾げた勇人を見た私は
なんて面倒くさい奴、と頭を抱えたくなってしまった。
この手の男に女子の憧れ願望を説明したところで
理解してもらえるとは思えない。
「あのさ!成瀬くん!」
「何だ?」
「人気者の定義はちょっと置いといて、本題に戻すわね」
「望むところだ」
まるでかかってこいと言わんばかりの様子の勇人に
私はたん、と勇人の机に両手をついて詰め寄った。
「好きな女の子の一人くらい、いないの?」
「・・・いなくはない」
てっきり「そんな人はいない」と逆な答えが返って来ると思っていたから
意外な即答に驚きつつ好奇心に胸が躍るのを押さえられない。
「うわぁ、マジ?誰?誰なの?!」
「聞いてどうするんだ」
ま、素直に答えてくれるとは思ってなかったけどね。
「いいじゃん。その人とつきあいなよ」
「無理だ」
「どうして?」
「ダメなんだ」
何が無理で、どうしてダメなんだろう?
勇人からの続けざまの意外な返答に戸惑ってしまう。
何が彼に駄目だと言わしめるのか、私にはわからなかった。
勇人の彼女になら自ら進んでと手を挙げる人は山ほどいるし
それが彼からの申し出とあらば、断る人の方が少ないだろう。
万が一、もし私にそんな状況が起こったとしても、おそらくきっと断れない。
「でもそのコも成瀬くんが好きかもしれないよ?そしたら・・・」
「そんな事は絶対にないと思う」
絶対にない、なんてどうして言い切れるのかと
突っ込んで問うてみたかったけれど
誰だって密かに思いを寄せる人に対しては自信がなくなるものだ。
それは勇人であってもきっと同じ。
・・・いや、もしかしたら彼は普通の人以上に
恋に対して臆病なのかもしれない。
あるいはその人が年上のオトナの女性かもしれない。
だとすれば、なおさらだ。
俯いて目を伏せた切なげな勇人を見ているとそんな風に思えてくる。
何となくそれ以上は聞いてはいけないような気がして
私はそれとなく話題を逸らした。

