プラスティック・ラブ


結局その時は勇人には会えなかった。
梶山が言うには入院している祖父を見舞うために
空港からそのまま病院へ向って、ここに入るのは夜になるとのことだった。



私のほっとしたような、残念なような面持ちが見て取れたのか
「成瀬じゃなくて、お生憎さま」と笑いながら部屋へ招き入れてくれた梶山くんは
空港へ勇人を迎えに行き、彼に代わってチェックインを済ませたらしい。


「車の中で、あいつの祖父さんが俺の勤務先の病院に入院しているぞって話をしたら
あいつ、そのことを知らなかったらしくてな。
命に別状はないって言ったのに、血相変えて病院へ送れというから
急きょ病院で降ろしたんだ」

「梶山くん、お医者様なの?」

「いや、理学療法士」

「バスケは?」

梶山は確か、バスケの強豪である実業団の選手だったはずだ。

「辞めたよ。ケガして。そんときのリハビリが今の仕事につくきっかけかな・・・」



そう穏やかに話す彼の低い声はあの頃のままだったけれど
おそらく、挫折と苦労を嫌というほど味わったに違いない。
夢をあきらめなければならなくなった切なさに小さな痛みを感じつつ
湧き上がってくる懐かしさのまま少し昔話をした後
勇人の滞在中は自分がホテル側の窓口になることを伝え
直通内線の書いてある名刺を渡して部屋を後にした。




一気に身体から力が抜けていく。
あんなに覚悟して気合をいれていたのだから、無理もない。
会えなかったことにほっとしているのは事実だけれど
もうここまできたらさっさと会って、こんな焦れた気持ちから逃れたいとも思った。



だって 落ち着かないんだもの―――