【NOBUKO】

家から出て右に曲がって、まっすぐまっすぐいって踏み切りを超えた先。

『みどり銀座商店街』のおっきな文字をくぐってさらにまっすぐ行って、無愛想な黒猫を過ぎて(こいつに軽く舌打ちするのも忘れずに)ボケじいさんの営む靴屋の向かい側にある焼鳥屋さん。


ここ、あたしのバイト先。あっ、ほんとはバイト禁止だからみんなには言うなよ。


ここね、温かいんだ。炭火とかのせいじゃなくて、人が。


つくねみたいにぽっちゃりまん丸い旦那さんと奥さん。夫婦二人で切り盛りしてたけど、忙しくなってきたからって常連客だったあたしにバイトの話を振ってくれたんだ。

いつもニコニコ。ケンカしても秒針が一周する頃には仲直りしてる。

二人は、あたしを実の娘みたいに可愛いがってくれるんだ。

「おっ、ノブ早ぇーじゃねえか。ありゃ、確か今日って昼からじゃ――」


裏口に回ると、旦那さんが今日の食材を車からおろしてる所だった。目をまん丸にしてあたしを見ている。そりゃそうだ。予定より6時間も早く来たら誰だってこの顔をする。


「うん。ちょっと色々あってね。バイト代いらないから何か手伝わせて」

あたしの声を聞いて、奥さんも顔を覗かせた。