雄介の言葉が、ナイフのように涼の心を切り込んでいた。手の力が抜け、思わず携帯を落としそうになるのを必死で持ちこたえた。しかし、胸の鼓動が収まらず、涼はしばらく何も言えなかった。

『んー、まぁ、いいや。直ぐに答えなんて出す必要なんてないしな。ピアノをまた始めるならそれでもいい。でも、紫をもっと見てやる努力はする。それでダメならあいつも諦めるだろ』

 雄介は、キッパリそう言ったのだ。妙に説得力があり、涼は「出来るだけ、努力する」とだけ言った後、彼らの会話は終わった。

(努力する…けど、あまり期待しないでほしいんだけど)

 涼はゆっくりと立ち上がり、自室を出るとキッチンに入った。そして戸棚からグラスを取ると、冷蔵庫を開けた。

 茶色く透き通った麦茶をコップに注いだ時、麦茶が跳ねて彼の頬を濡らした。

(冷てっ)

 思わず手で頬に触れ、跳ねた麦茶を指で拭った。

「あたしはずっと好きなのに、か…」

 細く長いため息を吐きながら、涼のつぶやきは宙に散っていった。