とけていく…

「ねぇ、お母さんのこと、覚えてる?」

 義郎が検査で病室を留守にしていた時、彼が病室を訪れた時のことだった。笑子が不意にそう話しかけてきたのだ。

「母さんのこと…? いや、俺を産んだら、死んだって聞いてるから…」

 彼が素直に答えると、「そう…」と、笑子は少し寂しそうに呟いた。

 彼女がそんな顔をするのは珍しかった。涼は、少しだけ気になった。

「どうかしたんですか?」

 彼は思い切って聞いて見ることにしたのだ。すると、笑子は少し躊躇ってから、静かに口を開いた。

「…あの人、亡くなった奥さんと私がそっくりだって言うのよ」
声を低くしながら、笑子はそう口にしたのだ。

「へ?」

「可笑しいわよね。私を見てると、懐かしいって言うの。私は、あの人のこと愛してるわ…。でもあの人、私のこと見てるのかしら? って時々、思うのよ」

 涼は、不安そうな視線を向ける笑子のそんな寂しそうな顔を見るのは、初め
てだった。

「…大丈夫ですか?」

 涼はどう返したらよいのか解らず、当たり障りのない言葉で彼女を慰めてはみたが、すぐにそれは違うと気付いたのだ。