とけていく…

「何、思い出してるの?」

 真由美は楽譜がびっしりと詰まっている本棚に寄り掛かり、アイスコーヒーのグラスに口をつけていた。

「いや… 本当に懐かしいなって…」

「ねぇ、今、弾けるやつでいいから、なんかやって」

「え?」

「ほら、早く」

 相変わらずせっかちな性格の彼女は、部屋の真ん中に構えているグランドピアノを指さして、突然そう言い出したのだ。涼は困惑気味に真由美の顔を見つめるが、彼女はもう一度ピアノの椅子に座るように、指を指す。

(その強引さは、あの頃と変わってねぇな…)

 彼はは小さく溜息をついてから観念し、椅子の高さの調整をする。その姿を、満足そうに真由美は見ていた。

 調節部分がぎしぎしと軋むその椅子に静かに座り目を閉じると、彼は構えた。そして、白く光るその鍵盤を弾きはじめた。