「ドレスを、綺麗に着たくて。毎日、夕食を林檎で我慢してて」 「え?」 「…何個も買うと、我慢できずに食べちゃいそうだったから。毎日、一個しか買わなかったんです」 照れ笑いを浮かべながら、耳に髪をかける仕草をした左手に、窓から差し込む光が反射した。 店じまい後、今日もオカンはそろばんを弾く。 ええ加減、せめて電卓にでもしたらどうだ。 「なぁ、おかん」 「んー?」 「俺、見合いでもすっかなー」 「そうしな。夢ばっか見てないでな」 『林檎の彼女』 end