常初花

「覚えてますよ、去年、毎日買いに来てくださってた」

「あは。仕事の帰り道だったんです。ここの林檎、綺麗で美味しそうだったから」

「ありがとうございます。お仕事帰りだったんですか」



自分でも驚いた。


平静を装うのに必死で、心臓は煩いくらいに早鐘を打つほどなのに。
久々の再会で、これまでにないくらい会話が広がった。



「えぇ、あそこの総合病院で。秋で退職してから、この道を通ることもなくなってしまって」

「そうだったんですか。お顔を見なくなってから少し心配してたんです」



頑張れ俺!
会話だ、会話を広げろ!


幸い今は、客は誰も居なかった。



「毎日1個、林檎を買ってくださってたから」

「あ…あれは」



彼女は、少し頬を染め、恥ずかしそうに言った。