常初花

「いらっしゃいませー」



照りつける真夏の日差しから、逃れるように店を訪れた女性客が居た。


商品の陳列をしながら、何気なくその横顔を見てまた手元に視線を戻す。



………ん?



ぱっと、勢いよく顔を上げて、2度見。



…あ、あかねさん!



間違いなく、それは林檎の彼女だった。


どくん、と鼓動が跳ねるのと同時に、頬が緩む。


病気なのかと心配していたことが馬鹿みたいに、彼女は元気そうだった。


声をかけるか、どうするか。


躊躇いはしたが我慢できずに、商品補充のフリをして彼女の横に立った。



「今日は、林檎じゃないんですね」



柑橘系の並ぶ棚を見ていた彼女は、俺の声に顔をあげる。



「覚えてくださってたんですか」



笑顔で応えてくれた彼女に、嫌がられなくてよかったと胸を撫で下ろした。