常初花


「聞いときゃ良かったなー…」

「何がよ」



パチパチとそろばんを軽快に弾く音がする。


反して、パソコンのキーボードの音は先ほどから全く続かない。



「なんで毎日、りんご1個だったんだろ」

「…あほ?そんなの余計なお世話でしょうが」



わかってら。
だから聞けなかったんだろうが。


急にやせ細っていったことも、病院のことも。
立ち入って聞ける立場にないし。


でも、元気でまた来てくれたらいいんだけどな。


半年を過ぎた頃には、もうそれも思い出さなくなって。



相変らず、モノクロな現実の中。


おかんに見合いを勧められて逃げ回ったり、それなり穏やかな毎日を送る。


そうしてまた、彼女と出会った夏の季節がやって来た。