俺の幼馴染が鈍感過ぎる


携帯の、午前四時に設定したアラーム音で目が覚め、ジャージに着替えて家を出る。

まだ、起きたばかりだが…新聞配達のバイトは朝が早いから、起きたばかりなのが普通だ。

一度事務所に言って配る分を袋に詰めた。

まだ、バイクの免許を持っていないので、走って配達する。

店長は、走っての配達だと知っているから、ここ周辺の分しか任されない。

その分バイト代は安いが、文句は言えない。

軽いランニングだと思い、毎朝走っている。

効率の良いルートで、沢山の家のポストに新聞を入れていく。

全てが終わった頃には、一時間近く経っていて、丁度六時。

程よい疲労感が身体に残る。

もう一度事務所に顔を出してから、挨拶をして家に帰った。

まだ、誰も起きていない。

俺の家は、父さんも母さんも六時半に起きるから、六時をちょっと過ぎた今の時間は、起きていない。

汗をかいて張り付いたジャージが気持ち悪いので、お風呂場に向かい、シャワーを浴びた。

こうやってシャワーを浴びるといつも思うが…朝風呂は、とても気持ちいい。

贅沢だ。

お風呂場から脱衣所に出て、制服を着る。

校則としてはいけないことになっているが、皆やっているので…というのは言い訳で、少しでもゆうに格好良いと思って欲しくて、第一ボタンは開け、ネクタイは少し下げてつける。

シャツに関しては、今の時期ブレザーを着るので、インしておく。

丁度着えが終わったぐらいで、母さんが起きて来る。

俺は、携帯で時間を確認した。

午前六時四十五分。

それなりに家から高校までは遠いから、いつも七時半に家を出ている。

もちろん、ゆうを迎えに行ってから学校に向かう。

だが、まだまだ時間に余裕がある。

何をしようかと考えていると、母さんが用事を頼んできた。

「美波!お茶沸かすの忘れてたわぁ〜。ちょっと、コンビニで買ってきて頂戴」

コンビニなら、二十四時間営業だから朝の早い今の時間もやっている。

我が家はご飯には必ずお茶、と決めてあるから、お茶を沸かすのを忘れていたなど、論外。

「買ってくるわ」

少し悩んだ末、了承する。

母さんのいる台所に行き、お茶を買うための金をもらい、家を出た。

歩いて十分圏内のコンビニに、約九分で到着。

中にはいるために、自動扉の前に立った。

ウィーン…

自動扉独特の音がして扉が開く。

朝早いからか、人はいない。

「いらっしゃいませー!」

コンビニの店員特有の、時間を無視した元気な声が、俺以外いない店内に虚しく響く。

誰もいないと、この声かけにどう反応すべきか困る。

店員は女性で、自分の出した大きな声に恥ずかしさを覚えているようだ。

「おはようございます」

何と返すべきか迷った末、無視するのは可哀想だと思ったので無難にそう返すと、女性は分かりやすくほっとしたような顔をする。

飲料の売っているコーナーに足早に向かう途中、再び自動扉独特の音と、そのすぐ後に店員の大きな声が響いた。

「いらっしゃいませー!」

「うん、いらっしゃったよ」

聞き覚えのある声。

即座に、燈のものだと勘付いて、ペットボトルのお茶を数本手に取って俺はレジに急いだ。

出来れば、会いたく無い。

いや、絶対に会いたく無い。

「あ、みな。朝から会うなんて、偶然。ねぇ、決心はついた?優明と別れる?」

願いは虚しく、叶わない。

テンション高めの口調は、声変わりで出るようになったであろうイケメンボイスと合っていない。

「…昨日、聞き忘れてたが、帰ってきたのか?」

昔は、ここに住んでいたのだから、この聞き方であっている。

まぁ、燈の質問はまるっきり無視だが、問題無いだろう。

本当に知りたいことなら、燈は何度も聞いて来る。

「ん?その通り。オレ、優明のために帰ってきたんだ。っていうのは冗談で、普通に帰ってきただけ。前に住んでたとこに住んでるから、またよろしくね。高校も一緒だしね」

朝っぱらから、嫌な情報を聞いてしまった。

俺としては、それ以上話す気はない。

なので、会計が済み、お茶の入った袋を半ば奪い取るようにして受け取り、コンビニを出た。

そして、家に帰った訳なんだが…

「お久しぶりです、おばさん」

何故か、こいつがいる。

「あら?あらあらあら…燈ちゃん?」

懐かしそうに名を呼んで、近付いて行く。

「まぁ、大きくなったわね〜。イケメンくんになっちゃって」

燈ちゃん、という言葉に燈は顔を歪めているが、そんな事に気づく俺の親じゃない。

「いつ、戻ってきたの?朝ごはんは食べた?うちで食べて行きなさい。もう、美波は何にも言ってくれないからねぇ。ほら、美波。お茶、冷蔵庫にいれといて」

ノンストップで喋り続け、何故か燈も一緒に朝食を摂ることになった。

そして、異様な朝食が始まってしまった。

朝食の内容としては、普通の和食。

異様なのは朝食を囲む俺ら。

喋り続ける母さんに、黙りこくる燈、その二人を交互に見ながら、何故こうなったのかと首を傾げる父さん。

そして、それらを見ながら黙々とただ食べる俺…。

どうにかこうにか食事を終え、燈は、何だかやつれた様子で、用意等をするために帰って行った。