店を出ると、聞こえてくる笑い声。

「えー?本当に?」

「本当だよ」

最近は、意地悪ばかりしてるからか、聞いていないゆうの笑い声だった。

喋っている相手は、ゆうと俺と幼馴染だった、沢 燈(さわ あかり)。

女らしい名前のくせに、嫌に爽やかなイケメン。

確か、小学校高学年のときに引っ越して行ったきりだった。

「あっ、なみ!燈ちゃん、覚えてる?」

何故だろう。ゆうのやつ、いつになく上機嫌だ。

「あぁ、覚えてる。久しぶりだな、燈」

ゆうは燈をちゃん付けで呼ぶ。

小さい頃は、かなり女顔だったというのがその理由だが、ゆうにそう言われた瞬間、一瞬だけ燈の顔が歪んだ。

「なみ。相変わらず、斜め上な愛情表現してるらしいな」

いつの間に移動したのか、俺の真ん前に立つ燈。

俺の肩を掴んで、男の俺でも惚れ惚れする低音ボイス(いわゆる、イケメンボイス)で耳元に囁いて来る。

多分、ゆうに聞かせたくないんだろうが…男に囁かれるのが、かなり気色悪いことだと、俺は理解した。

「あー?お前に言われたかないんだが。大体、お前は友達としてゆうの事が好きなんだろう。なら、お前には関係ないんじゃねーの?」

燈は、昔いじめられていて、それをゆうが助けていた。

だが、少女漫画にありがちなそこから恋に落ちて…というのは、燈にはなかったはずだ。

「うん、興味の欠片もないんだけどね、優明…かなり可愛くなったんじゃない?オレ、優明のこと狙おうと思うんだー。そのためには、付き合ってるお前が邪魔」

にっこりと笑ったまま言い切った燈。

これが、客観的な立場なら…どうする、里 美波!という感じなのだが、残念ながら俺本人が言われているわけで…。

「残念。俺は、誰にも渡さねー。ゆうは、俺のもんだ」

一方的に宣言し、ゆうの手を取る。

「ちょっ、なみ⁈私、まだ燈ちゃんと話してるんだけど!」

ゆうが何かを言っているが、無視。

どうせ、燈がどうのこうの、って言うぐらいのものだろうから。

半ば引きずるような形で、俺の家に入る。

「美波!あんた、帰ったんなら挨拶ぐらいしなさいよ!」

母さんが何か怒っている様な気がするが…気の所為だと思い込むことにした。