「お前らー、チャイム鳴る前に席座っとけよ。ベル着と言う言葉を知らんのか?」

結構若い担任、阿波理 和人(あわり かずと)が、やれやれと言ったように注意の言葉を言うが、生徒たちは全く持って阿波理の話を聞いていない。

「あわちゃーん、ベル着ってなんですかー?」

巫山戯た調子で、男子生徒が質問している。

「ベル着って言うのは、ベルが鳴った時に席に着席しておくこと、と言う注意事項の略だ」

「へぇー。そうなんですかー」

聞いた男子生徒は、そこまで分かってなさそうな顔でわかりました〜と言っている。

説明されても理解しようとしないなら、聞くなよ。

「あっ、そうそう思い出した。転校生がいるから、紹介するぞー。もうみんな知ってるだろう?先に教室に行ってもらったからな」

忘れてたのかよ…。

「おーい、沢。…席分かったのか」

もう既に、この学校の生徒です、みたいに空いている席に勝手に座っていた燈を見て、阿波理が呆れている。

「あっ、ここで合ってたんですか」

座った当人が、自分の座った席であっていて驚いている。

転校生なら、転校生らしくしてろよ…。

「いや、合ってたんですかって…分かってて座ったんじゃないのか?…まぁ、いい。沢、自己紹介してくれ」

阿波理がこんなにも呆れているのは、初めて見るような気がする。

「あっ、はーい」

席を立って前に行き、黒板にデカデカと自分の名前を書いた。

沢 燈。

「あれ?さっきのイケメンじゃん。何でいんの?ってか、転校生だったんだ」

女子がざわざわとし出す。

多分、燈は一度も教室を出ていないのだが、燈がどこに行ったかを気にする奴はいなかったんだな。

「沢 燈。さっき、彼女が出来ました‼小田 優明はオレのなんで…誰も手ェ出すなよ?」

ゾクリ…

あいつは、敵に回しちゃいけない気がする。

まぁ、ゆうのこともあるから、もう敵だけど。

手ェ出すな。は、多分女子に言ったんだろうな…。

あいつなりの、守り方か?

俺の席はゆうの席より後ろだから、少し視線を動かせばゆうの後ろ姿が見えた。

何と無く、燈を見つめているような気がするのは…考え過ぎだよな?