俺の名前は、里 美波(さと みなみ)。

俺には、幼馴染がいる。すっごく鈍感な。
名前は、小田 優明(おだ ゆうあ)。

幼馴染としての付き合いは十三年、カレカノとしての付き合いは三年。

あいつは、俺にもあいつ自身にも利益があっての付き合いだと思ってやがる。
違うに決まってんだろーが。

まぁ、俺の告白の仕方が間違ってたんだけど。




今日は、ゆうのやつ俺と一言も喋らずに帰りやがった。
高校に入って、部活に所属しないと分かったときは、あいつにいらねー虫がつかねーことに安心してたのに。

俺は、誰もいない教室でため息を吐いた。

「里くん?」

聞き慣れた声だが、今俺が聞きたいと思っているあいつとは違う、かなり高い声が俺に向かって掛けられる。

くるりと後ろを向くと、予想通りゆうの友達、下田 真菜(しもだ まな)が立っていた。

「何か用?」

ゆう以外に優しくする必要はない。

不機嫌な声でも、それが俺の普通だ。

真菜と目を合わせるのも億劫で、何気無く、ゆうの席に目をやると、ペンケースが堂々と置いてある。

即座に忘れ物のだと理解し、ゆうの事だからすぐに取りに戻ってくるだろうと推測。

ペンケースを手に、真菜と向き直った。

「ねぇ、里くん。なんで、優明と付き合ってるの?里くん、モテるのに。真菜、ずっと里くんのこと好きだったんだよ?優明と別れてよ」

少し前から、真菜の気持ちには気づいていたが…

バカバカしい。
けど、ちょうどいい。

ゆうの足音が聞こえるのを確認した俺は、真菜の手を思い切り引き、グロスの付いた唇を、自分の唇で塞いだ。

「ん!んー!」

最初は抵抗を示した真菜は、うっとりと目を閉じて、俺の行為を受け入れた。

正直、キモイと思う。

ゆう以外とはしたく無いが…悪戯心が止まらない。

ヤキモチをやかせたくてたまらない。

ガラッ

予想通り、音を立てて開いた教室の扉の向こうには、俺の大好きな幼馴染で彼女、ゆうがいた。

しっかりとゆうに見せつけ三秒。

真菜と、唇を離した。

真菜は、唇が離れた瞬間、ドアのすぐそばに立っているゆうを見つけると、即座に走って教室を出て行った。

ゆうがヤキモチをやいてくれていることを期待してドアの方に目を向けると、怒った顔でこちらを見ていた。

「なみ!真菜、顔真っ赤だったじゃん。可哀想でしょ!場所を考えなさい!場所を!あと、ペンケース。あんたが持ってたの?全く…」

ノンストップで言いたい事だけいうゆう。

やべっ。すっげえ可愛い。

って、そうじゃなくて。

「それだけかよ」

予想外の反応に、俺としては面白くない。可愛かったけど。

不満気に言うが、俺の不満には全く気づいてくれない。

「はぁ?何か文句でも⁉だいたい、私があんたと付き合うのは、周りに彼氏がいるのに私にはいないのが嫌だったからって言う、思春期の頃の話っ!ズルズルと付き合ってるけど、別れても良いの」

そう。俺たちが付き合ってるのは、好きでもなんでも無く、お互いにメリットがあってのことだと…あいつは思ってる。

「あんたにとってのメリットは、無駄に容姿がいいからよってくる、ハエのような女子を追い払うための、彼女。でしょう⁉」

違う。本当は、お前によってくる男子を寄せ付けないため。

でも、俺は小さい頃から何度も告ってるのに、あいつはいつも悪戯だと思う。

だから、その方法をとっただけなんだよ。

良い加減、気づいて欲しい。

だけど…こんな鈍感さも可愛いと思ってしまっているから、仕方ない。

「はぁー」

深い深いため息を吐くと、心底嫌そうな顔をして、ゆうが文句を言ってくる。

「私の前でため息吐かないでよ!私の幸せも逃げそうじゃん」

何だか少しずれた文句に、苦笑が漏れる。

「ゆう、今日は一緒に帰ろーぜ」

ゆうの頭を撫で、右手に制鞄を持つ。

「なんで私?なみ、モテるのに。私なんかより可愛い女子、いっぱいいるし…その子たちなら、喜んで一緒に帰ってくれるんじゃない?」

お前以上に可愛いやつなんて、いねーって。

そんな俺の心なんて爪楊枝の先ほども知らないゆうは、ほら、そこにも可愛い子いるじゃん。と、そこかしこに視線を巡らしている。

「アイス奢ってやるから」

ゆうは、アイスが大好きだ。

特に、ストロベリーのアイスは、どんなに機嫌が悪くても機嫌がよくなるほどだ。

だから、アイスの単語に目を輝かせた。

「ほんとっ?じゃあ、三段にするー」

アイスへの食いつきは、小さい頃から変わらない。

めちゃくちゃ可愛い。

俺の心のうちなんて知らないゆうは、無防備に笑ってる。

俺も、男なんだけどなぁ。

イマイチ、男として認識されていないのが悲しい。

「大好きだ」

真面目な顔をして、最近の日課となりつつある告白をしてみたが…

「何の冗談?真菜に言ってやりなよ。喜ぶよ」

案の定、これだ。

「まさか、真菜とキスするほど仲良かったなんて…」

俯いているゆうの声は沈んでいて、俺に期待をもたせるには十分だった。

けれど、次の一言は期待を裏切った。

「真菜が、こんな悪いのに騙されるなんて…(泣)」

そっちか。

俺が誰かに取られることよりも、真菜が俺に騙される(?)ことを心配するのか。

まぁ、許可も取らずにキスしたから、その心配もあながち間違っていないがな。