後姿はいつも見ているけど、向き合ってみる事なんて小学校の時以来だ。


 座った私の頭上に榛くんの顔があって、その顔を見上げる私。


 机に両手をついて、私の顔を覗き込む様に腰を曲げて、顔を寄せてくる。


 な、な何!?


 見上げていた榛くんの顔がだんだんと近づいてきて、逃げたくなる。


 逃げたくなるのに、視線は榛くんから離せないままで、高くなる体温と激しくなる鼓動と背中に流れる変な汗とに、動揺しまくっている私。


 コツン・・・



 と見る見る間に近くなった距離の先に、榛くんの長い睫毛があった。


「え・・・?」


 自分に今起こっている状況に、自分自身がついていけてない。


 触れているのは、私と榛くんの額?



「お前、熱い・・・」



 そう言って額から離れた榛くんの顔は、相変わらず鉄火面で表情は全然読めないけれど、私の顔はりんごも真っ青なくらい赤いって鏡を見なくても分かる。

 熱をもった顔が、触れた額が、燃えるように熱くて仕方ない。



「美伊?お前、熱がある」


「え?」


 そう言って私の手を引っ張り立たせる榛くんの手は、あの時と変わらず少し冷たくて熱を持つ私の手をひんやりと冷やす。


 熱がある?


 熱じゃなくて、これは榛くんが触れたことに体温が高くなってるんじゃ・・・?


 そう思っている私の鞄を自分の鞄と一緒に持って、右手では私の腕を掴んで教室を出て行く。


 手を伸ばせば届く距離の後姿―――――。


 久しぶりのその距離に、ちょっと涙が出そう。