放課後、部活のある綾は体育館へと行って、私は教室に一人残っていた。


 なんとなく帰る気がしなくて、机に突っ伏して静かな教室の中に一人いた。


 遠くで野球部の金属バットがボールを打つ音とか、顧問の先生の怒鳴ってる声とか、音楽部の微妙にずれてる演奏とか。


 静かに目を閉じれば聞こえてくる音はこんなにもあったんだな、って思う。


 普段はこんな風に、放課後の音を聞くことなんてない。


 色んな音に混ざって、ガラッと教室の扉を開いた音がした。


 誰?


 伏せていた顔を上げて、目が離せなくなる。



 榛くん・・・・・。



 一瞬、驚いたように私を見て、でもいつもみたいに鉄火面みたいに無表情になる。


 昔はもっと笑ってたのに。


 いつからそんなに笑わなくなったの?


 それとも私がいたから?


 私にだけ笑ってくれないの?


 そんな考えが頭をグルグルと回って、榛くんを見るのがつらくなってくる。


 ヤダ・・・嫌われたくないのに。


 気が付くと、俯いていた私の前に影が落ちる。


 「美伊」


 頭上から響いたのは、凄く、本当に凄く久しぶりに私の名前を呼ぶ榛くんの少し低い声。


 恐る恐る瞳をあげると、影の正体は私の前に立つ榛くん。


 背の高い榛くんが夕日を遮るように私の前に立つ。


 背中にオレンジの夕日を浴びて、髪の毛がオレンジ色に染まる。


 私の頬もきっとオレンジ色だ。