「彼女、出来ちゃうかもしれないよって事」


「そんな事言われたって・・・・・」


 選ぶのは榛くんで、私が決められるわけじゃない。


「後姿ばっかり見てるからだよ」


「だって追いつけないんだもん」


「追いつこうとしてないから、追いつけないんじゃない」


「・・・してるよ」


 だって、どんなに追いかけてもその背中に手が届かないんだもん。


 振り向いてくれないんだもん。



「そんなに可愛い顔してるのに、どうしてこんなに自信がないのか、本当に不思議」


 まじまじと切れ長の瞳に見つめられて、ドキッとする。


「別に可愛くないし・・・・・」


「そうやっていじけてるのは、可愛くないけど」


 あははっと綾は笑いながら、残りのコーヒー牛乳を飲んだ。


「桐生君、特定の彼女、作らないって噂だもんね。でも、それって、決まった「彼女」って存在がいないだけで、不特定多数の彼女はいるって事?」


 小首をかしげながら、そんな事をぶつぶつと綾は呟く。


 考えないようにしてたのに。


 綾の呟きを聞いて、同じ事を考えてしまう。


 榛くんの噂。


 特定の彼女は作らないんだって―――――。


 それじゃあ、彼女じゃないけど付き合ってる女の子がいる、って事なの?



 結局、その事が頭の中から消えなくて午後の授業は全く耳に入ってこなかった。

 
 右の前に座る榛くんを見ながら、告白してきた一年生になんて返事をしたんだろう、とか考えては、何て返事をしてても私が口を挟めるわけじゃないし・・・って考えて、でも・・・・って、そんな事をずっと繰り返しながら広い背中を見つめていた。