「それに、殺す気なんて無いんだけど…」

下から見上げると、ますます眉間にシワを寄せて

「それ以上、今は言うな。俺が倒れる」

私の首に顔を埋めながら唸るようにそう言った。

倒れる?

首をかしげる私に

「…可愛い過ぎるんだよ。そう言うの、違反だから」

可愛いって…榛君に初めて言われた…。
どうしよう…めちゃくちゃ嬉しい!!
ふふふって思わず顔が緩んでしまう。
素直に嬉しい。
やっぱり、伝えなければ分からない事は沢山あるんだ。
誤解とか勘違いとか、時間が経てば経つ程にそれはこじれて行ってしまう。
だから、大切な事は伝えなければ分からない。
分かってくれるなんて、ありえない。
気づいてくれるまでなんて、待てない。
ちゃんと伝える事がこんなにも大切なんだって、今さらだけど、やっと分かった。
だから、ちゃんと伝えよう。
榛ちゃんには今は何にも言うなみたいに言われたけど。

「榛君、好きだよ」

臆病で弱虫だった私にバイバイ。
素直になれ。
恋をやっと自覚した私。

顔が赤いのも全身が心臓みたいにドキドキしてるのも、分かってる。

でも、これは言わせて。

「好きだよ。だから、隣にいさせてくれる?」

ちゃんと視線を合わせて。
眼鏡の奥の瞳を見つめてそう言った。

「だから…違反だって…!」


折れるくらいに抱きしめられて、視線が重なる。

「幼なじみは卒業。今から彼女、だから」

冷たい指先が頬を包み込んで、ゆっくりと唇が重なり合う。

ずっと見ていた後姿。
追いつきたくて、でも、怖くて見ていた後姿。
でも、今はその瞳に私が映っている。
大好きな冷たい指先。
それは好きな人の指先。

ぎゅっと抱きしめて。
その指で、腕で、全てで。






🔚