恋する指先

「1年の始めに、駅前で男と歩いてたって噂になってた。時々、男と二人で歩いてるって。だから、それが彼氏だって言われてて、俺、確かめに行った事あるんだよね、実は」



「駅前って・・・男の人って・・・・・」


 思い当たる人は・・・一人いる。


 
「それって・・・・・」


「そう、薫さんの事」


 やっぱり。


 薫さん、草薙 薫さん。


 美織ちゃんの好きだった人。


 多分、今も好きな人。


 時々、見せる寂しげな顔はまだ、薫さんのことが好きだからだと思う。


 美織ちゃんの高校の担任の先生だった人。


 あの頃は、美織ちゃんが体調を崩してて、お見舞いに行く途中の駅前でよく一緒になった。


 友達、でもない、恋人でもないそんな二人の関係だった。


 きっと、見かけた人は薫さんだったと思う。


 28歳にはとても見えない、小柄で優しそうな人だった。



「俺は彼氏じゃないって分かってたけどね」


 ニヤリと笑って、私の手を握りなおす。

 
 指と指を絡めるように、一本一本絡める。


 恋人つなぎ。


 そんな呼び方の繋ぎ方。



「本当は美伊に話しかけようと思った、何度も。でも、話かけられなかった。自分で作った距離なのに、それが思っていたよりも大きくて。でも、痴漢に遭った時は、側にいてよかったって心底思ったよ。お前に触れたあの男をボコボコにしてやろうかって、怒りで我を失いそうだった。でも、泣いてる美伊を見て、側にいてやらないとって、それで冷静になれた」


 ぐっと指に力を入れて、私を引き寄せる。


 白いシャツの胸に引き寄せられて、抱きしめられる。


「もう我慢できないって、限界だって思ったよ。結構前から限界だったけど、昨日ので完全に無理だと思った。なのに、美伊は俺に聞いたんだよ、嫌いなの?って」


「あ・・・」


 昨日、私が聞いた事。


 私の事が嫌いなの?



「反対だって・・・。好きだから近くにいられなかった。だから、幼なじみじゃいられないって言ったんだ」


 それが理由、と抱きしめたまま、静かにでもハッキリと言った。