結局、同じ電車に乗っても、同じ車両に乗っても、視線を交わすこともなく学校に着く。

 
 ずっと後姿を見ながら、歩いても歩いても追いつけない榛くんの後を着いて行った。


「おはよう」


 校門を抜けた所で後ろから声を掛けられて振り返る。


「あ、綾、おはよう」


 石川 綾。
 
 中学からの親友で高校も同じ。

 クラスは違うけど、今も一番の仲良しの友達。

 ショートカットのよく似合う、小顔の綾は美少女って言葉がぴったりの超美人女子。

 本人にその自覚はあまりないみたいだけど。

 

「また、後姿を見てるの?」


「別に見てるって訳じゃ・・・・・」


 前を歩く榛くんを見て、綾が半ば呆れた声を出す。

 高校に入学してから早、1年と半年。

 毎日繰り返されるこの状況。

 それを毎日見てる綾。


「別に普通に、おはようって言えばいいじゃない。おはようって」


「・・・・・」


 おはようって言って、おはようって返してくれるって保障はないじゃない・・・。
 
 無視されたら?嫌な顔されたら?

 そんな事を考えて、結局、挨拶も出来ないまま1年半が過ぎた。

 私だって言えばおはようって言ってくれるかも、って思わないわけじゃない。

 でも、今朝の事を考えたらそんな気持ちになれない。

 きっと、傷つく結果になるってわかってるもん。


「別に無理に言えって訳じゃないけど、今のままだと卒業までずっと変わらないと思うからさ」


「・・・うん、分かってる」


 せめて普通に話せるようになりたい。

 そう思うのに、榛くんとの距離は全然縮まらないどころか、むしろ、広がっているのかもしれない。

 廊下を歩いて行く榛くんの後ろを歩きながら、私は力なくうな垂れる。

 綾とは隣のクラス。

 話せないままの榛くんとは同じクラス。


 神様って意地悪なの親切なのか分からない。