恋する指先

背中に回された手。


 私の首に榛くんの髪の毛が触れていた。


 背中に回された手は、私の体を支えるように伸ばされて、きつく、きつく抱きしめられていた。


「美伊・・・」


 そう呼ぶ私の名前が、榛くんの体を伝わって響く。


「俺は、お前の事が・・・・・好きだ」


 耳元で呟くように、消えそうな声でそう言った。


 好きだって・・・・・。


 今、榛くん、そう言った・・・・・。


 嫌いじゃなくて、好き、って。


 聞き間違いじゃないよね?


 私、都合のいい夢を見てる、とかないよね?


 どうしよう・・・私、凄く嬉しいかも。


 飛び跳ねたいくらい嬉しいかも。


 嬉しいのになぜかじわっと涙が溜まってくる。


 鼻の奥がツンってしてきて、涙の始まりを告げる。


 
「美伊、聞いてる?」


 体を離そうとしないまま、榛くんは聞いてくる。


 コクリと頭を縦に振る。



「美伊の事、そんな風に意識し始めたの、中学に上がる頃でさ。一緒にいるのが正直、しんどいなって」




「え・・・しんどいって」


 どうして私の事を意識すると、一緒にいるのがしんどくなってしまうの?


 しんどい、の意味を理解しても、どうしてなのかは理解できない。


「卒業式の後、女子が集まって話してただろう?体育館の裏で」



 卒業式の後?


 体育館の裏?


 記憶の糸を手繰り寄せると、確かに行った記憶がある。


 中学から別々になってしまう子もいて、そのまま帰る気になれずに集まって話した。


 言われてみれば、そうだった。


「それが?」


 確かに話したけど、それが、榛くんの「しんどい」とどう関係があるの?