恋する指先

「そんな風に言われると、聞けないよ」


 頬を膨らませる私の頬へ、そっと手を伸ばして膨らんだ頬を指の背でそっと撫でる。


 そんな仕草に、心臓がドキン!!と大きく跳ねる。


 触れられた頬が熱を持ったみたいに、焼けるように熱くなって、見る見る間に真っ赤になる私の顔。


 そんな私の顔を見ながら


「真っ赤だよ」


 って・・・・。


 どうしたらいいのか分からないのに。


 そんなことするから、もっと、どうしたらいいか分からなくなる。


「聞きたい?」


 赤くなった私の顔に、すっと顔を近づけて榛くんは静かに聞いてくる。


 聞きたい、聞きたいに決まってるけど、決まってるけど・・・・・。


「・・・聞きたい」



 幼なじみに戻れない理由。


 全ての理由を、やっぱり聞きたい。


「幼なじみには戻れないよ?いい?」


「それは・・・それは嫌だけど、今のままも嫌なの・・・。幼なじみに戻れなくても、友達・・・だよね?」

 
 最後の方は、消えそうなくらいに小さな声になっていた。


「ははっ・・・美伊も結構ずるいよね」


 そう言いながら、私の横に座っていたのを座りなおして、私の方へと体を向けた。


 斜めに向かい合うように座った私たちの膝が、かすかに触れていて、そんな僅かな感触に気恥ずかしい。


「美伊、理由はね」


 榛くんを見上げながら、ゴクリ、と唾を飲み込む。


「全部の理由はね」


 眼鏡の奥の瞳が私の瞳を見つめながら、ゆらゆらと揺れる。


 その揺れる瞳が、視線が、私を見つめて離してくれない。


「美伊、お前だよ」


 そう言うと、目の前が真っ白くなる。


 何が起こっているのか理解できずに、フリーズしてしまった。


 ふわっと香るどこかで嗅いだことのあるこの匂い・・・。


 あ・・・榛くんの香水か何かの匂い・・・。


 え・・・・・。


 シャツの向こうから聞こえてくる、規則正しい心音。


 伝わる体温。

 
 私は今・・・榛くんに抱きしめられている・・・?