恋する指先

 理由を聞きたかった。


 中学の時から知りたいと思っていた。


 見なかった理由を。


 話しかけなかった理由を。


 離れようとした理由を。



「・・・気になる。ずっと、ずっと気になってた・・・」


 見上げる榛くんの眼鏡の奥に瞳を見つめる。


 切れ長の瞳が一瞬揺れて、長い睫毛がそれを隠した。



「言ってもいいけど、聞いたら幼なじみには戻れないよ。いい?」


「え・・・?」


 そう言う視線は私を射抜くくらい強くて、思わず逸らしそうになる。


 ミルクティの缶を持つ手が、微かに震える。


 聞くのが怖い。


 でも、聞かなくちゃ前に進めない。


 二人の私が頭の中で騒ぎ立てる。


 聞いたほうがいいの?


 聞かないほうがいいの?


「・・・幼なじみに戻れないって・・・。榛くん、知られたくなかったって、言ってたよね・・・」


 昨日、屋上でそう言った。


 知られたくなかったって。


「ああ、知られたくなかった。それも同じ理由」


 どれもが一つの理由からなの?


「全部、同じ理由・・・なの?」


 首をかしげる私を見ながら、コーヒーを飲む榛くんはコクンッと頷く。


「そう、全部の理由は一つ」


 全然分からない。


 私が何年も悩んでた事の理由は一つだなんて・・・。


「分からないよ・・・」


 力なくそう言う私の言葉に、だろうね、と笑う。


「聞いたら、絶対に幼なじみでいられないの?」


「美伊はどうか分からないけど、俺は、ね。無理」


 私にはできるかもしれないけど、榛くんには無理な事・・・?

 益々、訳がわからない。


 私より何でも出来るのに、そんな榛くんに無理な事って何だ???