「昨日、嫌いなのって・・・聞いたよね?」


 榛くんがそう言って、私の手首を掴む指先に力が入って、反射的に顔を上げる。


 聞こえてた、んだ。


「・・・うん」


 ちゃんと言おうと思っていた。


 昨日、そう決心して家を出た。


 でも、そんな決心は榛くんの顔をてしまった時に、あっさりと躊躇いに変わった。


 言い出すタイミングを失った・・・と言えば聞こえはいいけど、結局は、また、逃げてしまいたくなってしまったんだ。


 弱虫だ、私。

 怖がってばかりの弱虫・・・・。


 でも、ちゃんと前を向くって決めたんだから。


 そう自分に言い聞かせて、まっすぐに榛くんを見つめ返した。


「・・・一本、電車、ずらさない?」


「・・・うん」


 私と榛くんは駅から出て、コンビ二の前の公園に向かう。


 自動販売機でコーヒーとミルクティを榛くんが買ってくれる。


「相変わらずミルクティ、好きなんだ」


 缶を私に差し出しながら、少しだけ笑う。


「うん、ずっと好き・・・」


 渡されたミルクティを受け取りながら、私も少しだけ笑う。


 なんかくすぐったいような、そんな感じがした。


 ベンチに腰掛けて、榛くんはコーヒーを、私はミルクティを口にする。


 二人ともなんて言い出せばいいのか、きっかけを探していた。


「俺、美伊の事、嫌いだなんて思った事ないよ」


 言葉を発したのは榛くんだった。


「え・・・でも」


 その答えは私の思っていたものとは違っていた。


 嫌いとは言われなくても、避けていた、と言われるだろうと覚悟していた。


 それなのに?


 だったら今までの態度はなんなの?


 湧き上がってくる疑問が頭の中でいっぱいになる。


「だって・・・だって・・・私のこと、見なかった・・・。避けてた・・・話して、くれなかった・・・」


 独り言みたいに呟く、私の小さな疑問が言葉になる。


「・・・それは」


「それは?」


 美織ちゃんの言うとおりで、理由があると?


 じっと見つめながら、ふいに榛くんが笑う。


 目を細めて静かに、笑って私を見ていた。


「気になった?」


「え?」


「美伊の事を見なかったし、話しかけなかったし、極力離れようとしてた。その理由が、気になる?」


 座っていても私の頭、一個分は高いところにある榛くんの綺麗な顔が、笑いながら、でも、切なそうに見えるのはどうしてなんだろう。