駅までの道のりを何も話さないまま、どんどん歩いて行く榛くんの後を私は一生懸命ついて行った。


 遅刻しそうなあの頃の朝のように、ただひたすら、榛くんの後をついて行った。


 駅に着いた頃には、私の息は少し上がっていて、はぁはぁと肩で息をしていた。



「あ、悪い・・・お前、小さいんだったな」


 振り返ってはぁはぁ言ってる私を見下ろしながら、歩く早さを少しゆっくりにしてくれる優しさが、胸をぎゅっと掴むように苦しくさせる。


「ううん・・・大丈夫」


 呼吸を落ち着けてそう言ったけど、本当は膝はガクガクしてるし、のどはカラカラで今すぐに座り込んでしまいそうだった。


 早歩きって言うよりも、競歩並みの早さだった。


 榛くんは普通に歩いているみたいだったけど、私よりも20センチ以上は背の高い榛くんの足と私の足では、長さが全然違う。


 男の子の一歩は、女の子の二歩くらいある事に、今、初めて気がついた。



 電車は数分で直ぐに来た。


 その間も榛くんは私の腕を掴んだままで、手首を掴む榛くんの指の感触を意識してしまう。


 長い指は私の手首を簡単に1周している。


 あの頃よりも大きくなった肩幅、大きくなった手の平、高くなった背。


 足元へ視線を落とせば、私の23センチのローファーとは全く違う、大きなナイキのスニーカー。


 私の知っている榛くんよりも、ずっと成長した榛くんがそこにはいた。


 毎日、中学でも高校でも会っていたし、見ていたのに。


 急に高校生の榛くんと会ったみたいな、不思議な感覚が広がる。


 私が見ていたのは小学校の榛くんで、成長した榛くんじゃなかったのかもしれない。


 あの頃みたい、にっていつも思っていた。

 
 あの頃の榛くんが目の前の榛くんなのに。