「待って」

「若奈……お前最低」

「なんのこと?ていうか、この状況理解してる?」

「してねぇよ」

「私ねー、太ちゃんと梨里ちゃんが付き合ってることなんてとっくに前から知ってたわけ。でも、やっぱ太ちゃんを取り返したいな~って思って、作戦を立てたのよね♪」

「……」

怒りがこみ上げすぎて、声も出てこなかった。

「まず、梨里ちゃんを尾行したの!そしたら、駅前のケーキ屋さんに入っててね」

確か、一緒に行ったことがある。

ここのケーキが好きだって、すごい笑顔で話してた。

「チャンスって思ったの。だから、ドリンクバーに行った梨里ちゃんにわざとお水をかけて、おごらせてって言って、ついでに友達になるって言う感じ。ちゃんとメアドも交換できて、また会う約束をしたの。そこで、相談に乗って~って言って、」

「前から俺と付き合ってる……そう相談したのか?」

「ビンゴー!!私の彼氏は梨里ちゃんと同じ高校で、でも浮気してるって言ったら、写真見たらわかるかも、って」

「で、写真見せたのか」

「うん。あの時のびっくりした顔ったらなかったわよ。笑いこらえるのが大変だったぁ~」

「お前……」

若奈はこんなやつだったのか。

俺はこんなやつが好きだったのか。

俺は、玄関を飛び出した。


「梨里!!」

梨里を見つけた。だから声をかけた。

「……」

「梨里、ちゃんと話そう。梨里が誤解してることが多すぎるんだよ」

「何?」

うつむいたまま、返答してきた。

「こっち向け」

そう言って梨里の顔を自分の方に向けた。

「梨里……」

その顔は、涙でしわくちゃだった。

「見ないで……」

「梨里は、俺のこと好きなのか?嫌いなのか?」

「……嫌い」

「え……」

「嫌いって自分に言い聞かせてるの!だから優しくしないでよ。私がこうやって泣いたら困るでしょ……」

「俺は、お前が好きなんだよ」

「太雅くんは、私となんていない方がいいよ。太雅くんは、大事な後継者でしょ?」

太雅くん。この呼び方に戻っていた。

「何の話だよ」

「若奈さんから聞いたよ。太雅くんのお父さんと若奈さんのお父さんは一緒に会社経営してて、若奈さんが日本に来たのも、太雅くんを呼びに来たからだって言ってたもん」

「若奈の言うこと、全部嘘だから」

「会社のことも嘘?」

「それは本当だけど、それ以外のことだよ」

「今日は疲れたから帰る。何が本当で何が嘘か、今の私は何を言われても信じられないから」