「久しぶり、太ちゃん」

太ちゃんなんて呼ぶのは若奈くらいだ。

「……おぅ」

「立ち話もなんだから、近くのカフェにでも行きましょ。話がしたいの」

「……」

俺は若奈に言われるまま、ついて行った。

洒落てるカフェだ。

「アメリカから帰ってきちゃった」

「見ればわかる」

「太ちゃんのお父様が、太雅を連れて来いって言うもんだから」

「……は?」

今、俺の父親はアメリカで働いている。

若奈の父親は、俺の父親の同僚みたいなもんで、昔から家族ぐるみで仲が良かった。

若奈は俺の3つ上だけど、俺はずっと若奈に憧れていて、「俺が若奈を守る!」ってよく言ってきた記憶はある。

そんな俺と若奈の父親同士はアメリカで会社を経営している。

若奈は高校卒業と同時にアメリカへ旅立った。

あの時のショックは、大きかった。

若奈はデキるOLみたいに、キラキラしているように見える。

「もちろん、太ちゃんが高校を卒業したらの話よ」

「それでも、アメリカへ行く気はない」

「じっくり考えて。私たちの両親の兄弟会社が日本にできるから、私はその件も兼ねて日本に来たの。だから、太ちゃんが卒業するまで、私は日本にいるつもりよ」

「いくら言われても、行かない」

「何で?」

「俺、大事な彼女が居るから」

「太ちゃんらしくな~い」

そう言いながら、笑う若奈。

「太ちゃんの憧れは私じゃないの?」

「それは昔の話」

「……今もそうさせてみせる」

声が小さくてよく聞き取れなかったから、「ん?」と聞き返した。

そうしたら、

「ううん、なんでもない」

と反応してくれなかった。