「この体制、1分が限界なんで」


「んー、まぁ短いけどしょうがない。許す」


目の前のモデルをいつも以上のスピードで模写してゆく

あ、ここってこんな風になるんだ、すごいすごいリアル。って当たり前か

などと考えてる私には、少年の

それが人にものを頼む態度かよ、なんて愚痴は届かない



「…ねぇ、まだ…?」

少年の切羽詰まった声が響く

「後、3秒待って!」

形を目に焼き付けながら猛スピードで鉛筆を動かす

その間も、もうとっくに1分過ぎてんだけどっと言う嘆き声が上がっている


「よし、取り敢えず描けた!」


汚いながらも出来た輪郭に満足してスケッチブックを持ち上げ、眺める

その一方で地面にへたり込む少年
その額には汗が浮かんでいる


「いやー、ありがとう。
お礼にアイス奢るからコンビニ着いて来て。」

「だから、俺は今から…」

「別にアイス食べてからでもいいでしょ?」


ニッと笑って手を差し出す



「……やっぱり最初からそのつもりだったんですね。」


自分で立とうとして手こづっていた少年は、私の手を取り立ち上がる


「ばれたー?まぁ、いいじゃん。
私にはキミが必要だったんだから。」

「一条です。」


それだけ言って
私より幾分か背の高い少年は

太陽の光を浴びてキラキラと光る汗を拭いながら

不機嫌そうにこちらを見る


口の端し上がっちゃってるけどね