「ねぇ、そこのキミ。
飛び降りる前にちょっと私の絵のモデルになってよ。」
放課後の校舎の屋上
夢中で絵を描いていたら、いつの間にか
脱いだ靴を律儀に並べて
フェンスの向こうで落ちようとしている少年がいる事に気付いた
私ってそんなに存在感ないかなぁ?
まぁ、この状況で向こうが私に気付かないのも無理ないか…
少年はチラッとこちらを見て一蹴する
いや、あのさ。無視するなよ
「…ねぇ、聞いてんの?別に私のモデルが終ったら勝手にして構わないからさ。
どうしても描けない構図があんの、手伝ってよ。」
画用紙に手を加えながら再度、頼む
「…それ、結局は引き止めてるだけですよね?ってか別に俺じゃなくてもモデルぐらいしてくれる人他に居ないんですか、寂しい人ですね。笑」
今度はウザそうに
顔だけ私に向けて口を開いた
なんっかムカつく野郎だな
「別に飛びたきゃ後で飛べばいいじゃん。一回戻って来たくらいで揺らぐような弱い意志なわけ?そんなんだったら辞めとけば。てかここにキミが居るから、キミにお願いしてるんだけど。」
画用紙から目を離し、左手で頬杖をつきながら見上げる
「キミ、キミ煩いです。
それから、この決断は固いんで。」
今だに、顔だけ振り返りながら主張して来る少年の髪が、風に煽られてふわりと浮く
その瞬間微かにフェンスを掴む手に力が入ったのが見えた
「じゃあ、名前何て言うの?」
「どうせ、教えても一生呼ぶことないと思いますけど。」
間髪入れずに返事が返ってくる
面倒くさいやつだなぁ
教えたところで
損にはならないでしょうよ
「じゃあまぁ、その場でいいからポーズしてよ。」
「…は?やるなんて一言も「えーとね、バク転の最中みたいに両手をついて、脚を上げて膝を曲げ…って描いてる途中にバランス崩して落ちられると困るからちょっとフェンスの中入って来てくんない?」」
「いや、だから…「早くして。」」
私が少年の声を遮ってまくし立てると
盛大に舌打ちをしながらフェンスを跨いだ



