「自信ないから、結婚して家庭に入りたい?」


図星を突かれて、言葉に詰まる。


「池谷さんとかさ、他の管理栄養士さんたちって、みんな出来る人ばっかりじゃん?まだ1年しか働いてないから、そんな人たちと比べちゃいけないって分かってるんだけど、どうしても比べて落ち込んで。この仕事って、人の命を預かる仕事だから、間違ったことは出来ないし。結婚して家庭に入ったら、そういう責任感じなくても済むかなって思うときもあるんだ。甘ったれてるでしょ?結婚を逃げみたいにして」


ため息をついて思わず愚痴ってしまうと、麻衣子ちゃんは「それは分かるかも」って言って頷いてくれた。


「私も最初はそうだったもん。だけど今年で働き始めて4年目じゃん。やっと慣れてきて、仕事が楽しくなったところ。だから慣れないうちは、余計にそう思っちゃうんじゃない?」


「慣れるしかないのかな……」


「ほら、石の上にも三年って言うじゃん。働き始めたとき親に言われたけど、やっとその意味が分かってきたかな。最初はやっぱり里穂ちゃんみたいに辛いときもあって、辞めてやるって思ったこともあったけど、今は辞めなくてよかったって思ってるもん」


「そっか」


今の私には、仕事も恋も上手くいっている麻衣子ちゃんがキラキラ輝いて見える。


でもそれは、麻衣子ちゃん自身がいっぱい努力したからだよね。


努力したからこそ、今の幸せがあるんだよね。


私は、ただ単に、辛いことから逃げたいって思ってるだけだもん。


まだ何も努力してない私に、幸せなんて来るわけないよね。


「私、もうちょっと頑張る」


「うん。いっぱい愚痴っていいからさ、一緒に頑張ろう」