そう言うと、「あら、そんなことまで?」と言ってお母さんは嬉しそうに笑った。


「最近、サッカーしてる主人が分かるようになったみたいで。だから、彼が現役の間は出来るだけスタジアムに連れて来ようと思って。この子に、パパはすごいんだぞっていうところを見せたいから」


そう言ったお母さんが、男の子を抱っこする。


「どの選手の家族の方?」


「高木修斗です。て言っても、まだ家族ではないですけど」


「そう。でもここに連れてきたってことは、近いうちに家族になるってことでしょ?主人が言ってた。修斗は世界に羽ばたける選手だって。サッカー選手の奥さんっていろいろ大変だけど、頑張ってね」


「ありがとうございます」


優しい笑顔を見せてくれたお母さんにお礼を言って、お手洗いに向かう。


そしてちょうど席に戻ってきたときに、後半のホイッスルが鳴らされた。


後半はFCウイングのペースで試合が進む。


後半開始早々、修斗にチャンスが巡ってくる。


修斗得意の、フリーキックのコース。


修斗がボールをセットすると、スタジアム全体が静かになった。


みんなの視線が、修斗に集まる。


審判のホイッスルが鳴らされ、肩で一回大きく息をした修斗が、ボールを放つ。