「......ッ、」

「うるさい!!声を出すなって言ったでしょう?!」


右肘に、聞きなれない音と共に激痛が走る。

この痛みも、もうかれこれ16年は与えられてきたが“慣れ”というのは恐ろしいものだ。

前より感じなくなってきている。


「......ぁあ!!もう!!私、寝るから。電気消しときなさいよ。」

「...はい。」


母が、大きく声を張ってあたしに命令した。

わざとらしく足音を立てて隣の部屋の布団の中に潜り込む。


...母は、あたしが生まれて間もない頃に父に逃げられた。

両親はお互いに溺愛し合っていたらしい。

だが父は、子を持つつもりはなかったらしく、あたしが生まれた時に家を出ていった。


その怒りと苦しみを母は、あたしにぶつけることにしたらしい。

一度ストレスを吐き出す場所を見つけると止まらなくなるらしく、母はあたしに16年間暴力をふるい続けた。

あたしは、虐待を受け続けた。


だけど生まれた時から受けてきた暴力は、あたしの身体に生活の一環としてはめこまれた。

それが一般的でないことは友人たちとの会話で分かっていた。

だから反抗的な態度や発言をしてみたが、さらに母の怒りを増加させるだけのガソリンでしかなかった。


生まれた時から泣くことと我慢することしかしてこなかったあたしは、母の前では以ての外、友人の前でもうまく笑うことができなくなっていた。


「......薬、どこだっけ。」


服の袖を少し捲ると、赤く腫れ上がっている箇所が多々。

薬を塗らないと青あざとして残ってしまう。


母の寝ている一階の電気を全て消してから、二階へと静かに駆け上がる。

右半身が、ズキズキと痛むのが分かる。