翌朝。低血圧な未来としては珍しく、彼女はい つもより二時間も早く目を覚ました。

それもこれも、変な夢を見たせいである。とは 言っても、起きた瞬間に夢の内容は忘れてしま ったのだけれど……。

「なんか、胸がざわつくっていうか……。

夢の中で、エルクに呼ばれた気がする」

なぜだかモヤモヤの晴れない気分のまま着替え を済ませ、「ま、気のせいだよね」と、ひとり ごとをつぶやきつつ、未来は部屋を出て階段を 下りた。


なんだか、家の中の様子が違う。未来がそう気 付くのに、多くの時間はかからなかった。

「エルク、青乃臣…?」

人の気配が全くない。

ダイニングに駆け込むと、テーブルの上には朝 食だけが静かに置かれていた。青乃臣お手製の クロワッサン。

しかし、今の未来は、クロワッサンの甘いかお りで気分を和ませることなどできなかった。

「青乃臣! エルク!」

二人の名前を叫びつつ、未来は二人の部屋に飛 びこんだ。

やはりと言うべきか、彼らの姿はなく、部屋の 中からも生活感が消えていた。荷物も無くなっ ている。二人がこの屋敷に来る前の状態に戻っ ている。