「お、俺は、今日からこちらに異動になりました、小林隆也と申します。階級は、巡査部長です」

「巡査部長なの。ま、よろしく。私は美波櫻子。階級は警部。そして特務課室長よ」

美波櫻子と名乗る女性は、そう言いながら、自らの机に戻っていった。

なんだよ、愛想悪いな。もしかして、人見知りなのかな?

軽く挨拶をしたあと、特務課を出てジュースを買いに行こうとしたら、捜査一課の里田と宮林に話し掛けられた。

「おっす、小林。お前災難だったな〜」

「他人事みたいに言うなっての。確かに俺がわりいけどさぁ」

「ま、降格にならなかっただけましじゃない?それにしても普通携帯マナーモードにするの忘れる?」

「だから掘り返すなって。そんでさぁ、聞きたいんだけど、特務課ってなんだ?」

この一言で、里田と宮林はいきなり何も喋らなくなった。どうしたんだろうか、何か変な事でも言ったか?

「お前、特務課知らないのか!?ほんっと馬鹿だぞ!!」

「そうよ!あそこなんて言われてるか分かってるの!?」

「「刑事の三途の川って呼ばれてんだぞ(のよ)!!」」

「三途の川?」

三途の川って、あの世に繋がる川のことだろ。なんで?どういう意味が?

「こいつ…本当に知らないみたいだ」

「ええ。話した方がいいかしら?」

青ざめた顔をした二人は、俺に目線を向け、「落ち着いて聞いてくれ」と静かなトーンで話した。

「いいか、小林。あそこがなんで三途の川って呼ばれているのか。それはだな、特務課に異動した刑事は必ず、退職するか更なる左遷をさせられるかだからだ」

はい?退職に更なる左遷?

「しかも異動されるのは伸びしろがいい刑事とか有能だけど難がある刑事たち。一ヶ月もてばいい方なのよ。ほら、二週間前に辞めた刑事いたでしょ?あの人も特務課に異動された人なの」

え?え?それってかなりの訳あり物件?
だとしたら…。俺、あの刑事と同じ運命を辿るのか!?
まさか、冗談だと信じたい。

「そういう冗談はよせよ〜。お前らグルになって俺をはめようとしても無理だからな」

「「はめていない!!」」

二人同時に怒られた。これって、マジもん…?

「バヤシくん、特務課入った時、綺麗な女の人いなかった?」

「いたぜ。確か、美波櫻子警部だろ。その人がどうした?」

「あの人には気をつけろ。かなりのくせ者でどうも一筋縄じゃいかねえんだ」

「おまけに、堂々と上司に対して歯向かうのよ。だから上はアンチ美波警部がほとんどなんだから」

「それから、美波警部は見た目の割にはかなりの格闘家でな、2メートルある犯人を一本背負いで捕まえたんだぞ」

「あと、大人数の強盗をたった一人で逮捕したってのもあるみたい」

…聞いてみたら、美波警部、くせ者よりも怪物だろ。あの華奢な身体でそんな逸話なんて。

「す、すげぇな。美波警部…」

「とにかく、お前の無事を祈る!」

「大げさだっつの」

「バヤシくんが退職しても、私たちは忘れないから!」

「退職しねーよ!」

同僚からのあまりありがたくない助言を貰い、二人と別れた後、下の階にある自販機でいつも飲む缶コーヒーを買い、特務課に戻った。