悪を許さない、弱きを助け強きを挫く、正義を貫いて真っ直ぐに生きる。
昔から憧れていた、刑事のイメージ。ブラウン管越しから映る正義のヒーローは、俺の夢であって、尊敬の象徴。そんなヒーローになれた時は、嬉しくて嬉しくて、泣いたりもしたし、何度もほっぺ引っ張り、夢じゃないかを確認してた。今思えば、初々しくて若かったんだなぁ、と。

だが今は、そう思い出にふけている状況じゃなかった。
俺は今、張り込みをしている。
対象は、前から張っていた麻薬密売組織。用心深くてなかなか表に出ない奴らで、警察も手を焼いていた。しかし今回は、その組織の幹部クラスの男が一人街を出歩いている!これはまさに好機、奴を捕まえれば組織は傾くも同然。一斉一隅の大チャンス、絶対のミスも許されない。少しのミスがあったら、せっかくのチャンスを棒にふる。誰もが緊張していた。無論俺も。
その時だった。

ピピピピ!

携帯の着信音が響いた。
普通ならマナーモードにしているはずだ。現場にいた刑事全員が自分の携帯を確認した。
しかし全員携帯をマナーモードにしているか電源をオフにしている。だとしたら…。
俺の携帯を出したら、黒だった。
俺の携帯の着信音だった。
そのスキに、対象が逃げてしまった。むしろ、着信音に気付いてのが、正しかった。