どこにも属さない深く広い国境代わりの森。
そこには小さな小屋が1つだけ建てられ、
沢山の草花や木々に囲まれ、近くには澄んだ小川が流れている。
そんな所に住んで何年になるだろう。
薬を作る材料である草花をカゴいっぱいに摘んで、
ぼんやりとした自分の思考回路で考える。
周囲と距離を置くように。
関わりを絶つように。
ひっそりと生きてきた。
《サラ…―――》
《―――…おいサラ》
そんなことを考えていた私の背後から名を呼ぶ声がして、
声のした方へとゆっくりと振り向いた。
『………?』
しかしそこには誰もおらず、森の香りを運ぶ風しか吹かなかった。
『疲れてんのかな。』
この森には、あの小屋には私しか住んでない。
なのに私ってば“あの人達”の姿を、声を都合よく思い出す。
忘れられない“あの人達”は…。
ふと思い返しては私の心を温かく、そして悲しくさせた。
そんな心境と伴うように私の足取りは少し重くて、
トボトボと自分が住んでいる小屋へと向かった。
会いたい。
“あの人達”にとても会いたくて仕方ない。
ふと空を見上げれば、やっぱり空は青くて。
クダラナイことで突っ掛かってきてはからかい、よく口論し喧嘩をした彼と私を今でも思い出す。
いつも口が悪く、短気で。
馬鹿みたいに真っ直ぐな性格。
それでも彼は困ったように笑って、不器用な優しさをもった人だったのを覚えている。
彼の猫ッ毛の髪や、冷たそうにも見えた眼はこの青空よりも深みのある青で。
とても綺麗な宝石のように陽の光を浴びてはキラキラと光って見えた。
『あの人は今、床に伏せてるみたいだけど、ね。』
人とは本当に儚くて。
確実なものと言えば、
森の先住民である動物や風の伝いでしか私は外の状況が分からない。
その状況によれば特別な青をもった彼は老いて、今では床に伏せてるらしい。
数年前から私は“知っていた”のだから、今更だけど。
彼と似た青空から視線を逸らし、再び小屋へと足を向けた。
この場所にあった樹木で作ったこの小屋は私の力を使い、力を込めたもの。
特殊といえば特殊な小屋。